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機械工学セミナー 鋳造技能とは(外部講師) 

(対象:学部3年次)

 熟練した技能が要求される鋳造を取り上げ,鋳造業に従事している技術者・技能者を外部講師として招き,「鋳造技能」に関する講義をして頂いた.作業現場を見ることは安全性や機密保持の観点から容易ではないため,非常に貴重な機会となった.

 

鋳造技能       講師:児玉鋳物(株) 

児玉さん

 実際の工場における作業風景のビデオ,図面をもとに講義いただいた.そして,講義後には,大学の研究室にて鋳型現物の説明を受けた.図面では分からなかったが,実際の700mmx700mmの木型や砂型を見ると,かなり大きいものであった.

  鋳物を製造するには,図面の確認,木型の製作,鋳物の製作の3工程に分かれている.現在,鋳物と木型の製作は分業化されていて,鋳物師は木型師とよく打ち合わせを行って,製作を行う.

 近年,材質や熱処理等が多様化しているため,図面を正確に読み取る必要がある.図面の確認の段階では,発注会社名,品物の大きさ,材質の確認を行う.同時に,その形状や材質で要求性能を満たすことができるのか(温度変化,強度),どの程度の重量に耐えられるか検討を行い,見積もりを提出する.無理な注文には,必ずここで変更提案を行う.当然,自社の設備で製作可能かを検討する.また,図面にRが無いと,鋳造時にその部分だけ熱がこもってホットスポットとなり,温度低下が遅くなり欠陥ができるため,Rも重要である.

 木型の製作では,1個込めか,多数込めかを確認,鋳造法案の検討,伸び代や加工代を含めた設計が必要になる. 鋳物の製作では,まず中子を製作し,上型,下型を作り,塗型し,型合わせをし,注湯する.注湯時に,不純物が入ると欠陥の原因となるので,ストレーナーを通す.

 鋳物は成分によって強度が異なるので,テストピースによる強度試験を行う.しかし,それが実体と,異なることもある. 焼き入れは,パーライト組織のものでないとできない.フェライトからパーライト組織にして焼きいれることも可能だが,できればもとからパーライトのものを使う.

  鋳造でも,最薄2mmまで,肉厚をコントロールできる.1500℃で溶けた鋳鉄を,薄肉の場合は1400-1300℃で,肉厚鋳物ではそれより低めの1300-1200℃で鋳込む.これは肉厚だと凝固する時間がかかるため,塗型材が耐えられず,砂が溶けるのを防ぐためである. 発泡スチロールで作る発泡鋳型(FMC型)は抜け勾配を必要としない.注湯とともに,一瞬で気化し,型が溶けてなくなる.  

 日本の鋳物の不良率は3%であり,アジアだと3倍以上あると言われる.それでも一般の機械加工の不良率0.1-1%に比べると大きい.欠陥は最終段階で分かることがほとんどであるため,最初から欠陥が出ないように注意深く行うことが重要である.

 

鋳造技能      講師:(株)永瀬留十郎工場 

永瀬さん

 まずは,川口で創業140年の鋳物工場に勤めている講演者から日本の製造業の現状を話していただく.

 次に,鋳物の概要について,ビデオを用いて説明をされた.鋳造の製品は,奈良の大仏から始まり,現在は身の回りの門扉,マンホール,街路灯の他,自動車が主体となっている.エンジンのシリンダーブロック,ディスクロータ,カムシャフト,クランクシャフト,ブレーキなどに見られる.

 溶けた鉄は,粘度が少なく,水よりも流れやすい.したがって,型に流し込んで,「複雑な形状が簡単に作れる」,「大きいものが簡単に作れる」などのメリットがある.一方で,「他の機械加工に比べて寸法精度が低い」,「鋳型を作るための模型が必要」などのデメリットがある.鋳鉄は水の20倍の表面張力があるため,砂に金属が溶け込まない性質から,砂を型に用いることができる.砂は何度も使うことができるので,環境面にも良い.

 製造過程では,引け巣に対応するために押し湯などの対策を取られる.昔は押湯をする場所を職人の勘で決めていたが,現在では,計算機による凝固シミュレーションで決めている.また製品が薄肉か,厚肉かによって,鋳込み速度も変えるなどの工夫が必要である.これについても,注湯のシミュレーションがある.また,中子を支える幅木などが必要なので,完全な空洞を作ることは難しい.そして,抜け勾配が必ず必要である.

 この様に設計者(発注者)が,鋳物製造の特徴や性能を理解していないと,要求性能を満たすものが作れない.相互の理解が必要である.時には,鋳造業の方からも提案をしている.  鋳物の材料については,耐摩耗性があり削りやすい「ねずみ鋳鉄」,鋼のような引張特性を持つ「ダクタイル鋳鉄」などの改良されたものがある.

 鋳造は古い加工法であるが,今なお進化をしている.今後は,コンピュータと職人の技術をうまく融合して作っていく.日本にはアジアの国々に負けない技術があるので,それらを生かして,良いものを早く,効率よく,作っていかねばならない.

 

 

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