saitama univ.

学術講演会 (第1回)


(2009年2月18日)

鉄と経営の話


講 師:児玉 洋介 氏

     児玉鋳物(株)

講師
講演内容

*今回の世界同時不況は金融バブルと資源バブルの崩壊によるもの

  1. .金融バブルの崩壊: 

    今回の不況は100年に1度の金融不況。 アメリカ発の住宅バブルを象徴するサブプライムローン。
    プライムローンは住宅建築時の優良貸付であるが、 サブプライムローンは金利が高く、資産の無い人が住宅を建築する場合にも貸してくれる。金融機関がそれらの住宅ローン証券を売っていた。しかし、ローン返却不能で不良債権となり、リーマン・ブラザーズは倒産、他の金融機関も多大な損害を受ける。

    日本資本主義の父、 渋沢栄一に「右手に算盤。左手に論語」という言葉がある。アメリカにはそういう思想はない。

    日本はモノを作って売る。そのために、設備投資の資本を借りる。しかし、アメリカでは金融そのものが商品になっている。その破綻が起きたと言っていい。アメリカは日本の経営者と考えが違う。

  2. 資源バブルの崩壊:
    鉄需要の急激な増加→中国の需要増大、その後急落

    世界の粗鋼生産量は2004年に10億トンの大台に乗った。その後伸びを続けるが、それはすべて中国の伸びに等しい。日本の粗鋼生産は1億2000万トン、国内消費が7000万トン、約5000万トンを高級な鉄として輸出。中国は5億トンすべてを国内消費。鉄道、道路等インフラ整備に用いている。中国急成長のために、鉄鉱石は高騰。2007.4に50$/tだったのが、2008.4には80$/t。鉄鉱石は3大メジャーが8割を占めており、中国市場を見て価格を釣り上げている。世の中の物価のバランスが大きく崩れた。その後、3大メジャーに2007年当時の価格への改定を交渉。鉄の値段は下がりつつある。

    他の金属も急激な値上がりと、値下がりがあった。

    Ni単価の推移 800円/kg(2000年)→6000円/Kg(2007年5月)→1200円/kg(2009年2月)
    児玉鋳物(株)では鉄にNi35%入れた材料で鋳物を作っている。熱膨張が少ないので、精密機械に用いられる。しかし、原料の値段が変動するので、3か月ごとに価格改定している。 

*. 川口鋳物の歴史

  • 江戸では、鋳物製品の需要があった。昔は、鋳物屋は火事の元だったので、川向こうに移動した。江戸を囲う川は多摩川と荒川があるが、多摩川沿いの砂は鋳物に向いていない。一方、荒川の対岸の川口の砂は鋳物に適していた。最初は栃木県佐野の方が盛んだった。川口に増えたのは、明治38頃。明治38年 川口鋳物業組合 30数社で発足。

  • 本格的に増えたのは第一次世界大戦の頃、軍需産業による。児玉鋳物(株)も大正7年創業。

  • 昔は、1時間に500Kgが溶解できる2mぐらいの高さの「こしき」というキューポラの原型の溶解炉を持つ小さな工場が多かった。 机の脇とか、現在スチール+溶接のところも、すべて鋳物だった。金庫のキャスターなど。
    そのような、小さい鋳物を作る家内工業が多かった。
    溶解専門の職人、型つくり職人、仕上げ職人はいくつもの工場をかけもっていた。
    (最近ではディズニーランドのウエスタンリバー鉄道の椅子の脇の肘掛が鋳物:アメリカの設計図で指定)

  • 第二次世界大戦後は、鉄が不足して、アルミで鍋釜を作った。朝、砂型を作り、昼に溶解、注湯、すぐ固まるので、その日のうちに型ばらし、仕上げ。次の日には出荷が可能。仲買人が来ても、すぐ売り切れてしまう状態だった。

  • 景気の動向にしたがって、年間50社程度、増えたり減ったりしていたが、一時期は450社ぐらいあった。

  • 昭和48年オイルショック以降は、年間10社づつ減り始めた。

  • 平成21年現在、川口鋳物組合は140社。

  • 鋳物は、2000年前から始まり、あまり加工に変化が無い。
    溶接ができるような鋳物ができたら、新たなニーズが見込める。
    新たな試みとして、アルミに侵食されない鉄を開発中。

* 内部統制

  • 「内部統制」は、欧米から持ち込まれた概念。「内部統制」=「Internal control」
    語源は、「controle(16世紀フランス=勘定帳簿) Contra(反対に)rol(転がす)」とあり、 「帳簿を反対方向に回す」、「(遡って)調査する。照合する。」とある。
    現在では、会計監査、業務監査、職務監査等を内部の人間が行うこと。
    会計ばかりではなく、業務に対しても不正がないか監査をする。
    2008年度から企業に対して、法律で義務づけられた。


  1. 会社の資産を守る 備品台帳の作成、実印の管理、領収書の管理

  2. 会社の業務管理  売上予算の策定、部門別売上げ利益の分析

  3. 定例会議の設定 役員会→経営会議→営業会議→課別営業会議、必ず議事録を作る。「報告・連絡・相談」が重要。

  4. 内部統制の考え方 

    目的4、「業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全(人材を含む)」

    基本的要素3、「統制環境、リスクの評価と対応、モニタリング」

    経営者の絶対権力は絶対腐敗する。

    不正リスクへの対応は、予防、早期発見、再発防止の三段階で対応が必要。

 

以上,2時間にわたり,近年の金属産業状況と企業における経営理念の倫理観の重要性についてご説明いただいた。

 

 

 

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